--北パンタナ-ルのエコツ-リズム(2003年3月 日本地理学会発表原稿 仁平)-- OHP1(はじめ) 南米大陸の中央に位置するパンタナ-ルは, 世界で最も豊富な動植物相を有する大湿原である. かつてパンタナ-ルは, 1部の釣り愛好家や野鳥観察家しか訪れない秘境と呼ばれた. しかし, 近年では, 世界的なエコツア-ブ-ムを背景として, 国内があら大勢の観光客が訪れるようになった. 急速な観光客の増加と, 環境破壊の問題が顕在化している. 本発表では, とくに早くから観光開発が進展した北パンタナ-ルを対象として, 農家民宿と近代的なホテルの経営事例を検討することにより, パンタナ-ルにおける今後のエコツ-リズムのありかたを提示したい. 以下. パンタナ-ル縦断道路沿いの宿泊施設とエコツア-, 近代的なホテルの経営, 伝統的なファゼンダの民宿経営, 今後のエコツ-リズムに向けて OHP2(最初 ブラジルにおける国立公園とエコツ-リズム地域の分布) つの国立公園(赤) 国立公園の近隣に, ブラジルスポ-ツ環境省 が定める26のエコツ-リズム地域(緑) パンタナ-ルはブラジル中央部, ボリビア パラグアイの国境. アマゾンに次いで大きいエコツ-リズム, LonlyPlanet誌では, まず, パンタナ-ルとアマゾナスを取り上げ, その他の新しいエコツア-の地域として, 東部の地域が紹介されている. 新しい地域では, 動植物の観察ばかりでなく, トレッキング, ラフティング, シュノ-ケリングなども重要なツア-としてとりあげられている. OHP3(研究対象地域) 網掛けの部分が湿原 流出河川, パラグアイ川(ブエノスアイレス, ラプラタ川の支流) MT(北パンタナ-ル)MS(南パンタナ-ル), クイアバ川とパラグアイ川に挟まれたポコネパンタナ-ルを対象 MT, 州都クイアバ, 110km でゲ-トシティ-のポコネ, そこからパンタナ-ル縦断道路が湿原の奥地にのびている. 1970年代はじめ, 軍事政権, 畜産物輸送, パンタナ-ル観光のメイン道路 (MS 州都カンポグランデ 回り込む 河川に囲まれた地域には名称, クイアバ川 パラグアイ川 ポコネパンタナ-ル ポルトジョフレ, ポルトセルカ-ド) OHP4(パンタナ-ル縦断道路) ポコネ ポルトジョフレ 147 州都クイアバから1日 ポコネ ポルトセルカ-ド 40km パンタナ-ルゲ-ト ガイドブック, ブラジル環境 天然資源再生局Ibamaのオフィス 宿泊施設の分類 牧畜ファゼンダ, 農家民宿(3件の農家だけ専業) 観光用のホテル, つり民宿 パンタナ-ル縦断道路, 10件の農家民宿, 2件のホテル 州道370号線2件の民宿, 3件のつり民宿, 1件のホテル OHP5ポコネにおける宿泊施設の概要 開業年 農家民宿1980年代後半1990年代, 1988年が最も古い ホテル1988, 1992, 1998 部屋数 農家民宿10以下, ホテル20以上 宿泊料金 農家民宿 1人あたり70-80レアル, ホテル 100-150レアル, 海外, 国内でも上流階級, 高い 提供するツア- 乗馬, ボ-トや自動車での野外観察ツア-, ホテルには, ビリ-ヤ-ドやカ-ドなどのゲ-ム場, カラオケなどのレクリエ-ション施設 OHP6(北パンタナ-ルにおけるエコツア-の季節性) 季節 4つに分けられる. 11-1月が最も水が多くなる氾濫季, 2-4月が雨季, 5-6月が水が引いていく低水位季, 8-9月が乾季 気温 年間を通して20-30度と安定, 年間の降水量は1300-1450mmで東京とほぼ同じ. 観光客の数, ツア-や野生動物観察に適する季節を定性的 観光客は5-8月, この低水位季と乾季は, 乗馬やボ-トなどを利用して, 野外観察に適する季節 この時期, 野生動物は, カピバラ, ワニ, 野鳥, 花, 野鳥の営巣地などがみれられる. OHP7(写真 近代的なホテル経営, SESCパンタナ-ル) このホテルは, SESC(ブラジル商業連盟社会サ-ビス)によって経営される. 敷地面積は4000平方km, 部屋数は60である. 従業員は, フロントの受付係が16人, エコツア-のガイドを含めたホテル運営が45人, クイアバの事務員が15名である. OHP8(SESCパンタナ-ルの見取り図) 大きな建物がコンパクトに収まっている. 左側 宿泊施設は3つの建物, 28室が主要, 2階建て, スイ-トル-ム6室 2階建ての建物は調査地域では2つしかない. 端の建物は, エンタ-テイメント, 映画上映, カラオケ, 会議室, 船着き場, 下水処理施設, 通信用の鉄塔 客室の隣 フロント, 土産物屋, 奧には井戸, 給水タンク, 農園がある. 農園は雨や虫が入らないような施設になっており, 有機野菜やハ-ブが栽培されている. 中央部 レストラン, プ-ル, 子供の遊戯施設, 調理場, 食料品などの倉庫, 発電施設 さらに, 生ゴミや不燃ゴミの分別施設 右端には, ツア-のガイドや研究者が宿泊するゲストハウス, また, ボ-トをつけた車が停車できる大型の駐車場がある. OHP9(SESCパンタナ-ルの宿泊客) 2000年9月から2001年1月まで, SESCパンタナ-ルの宿泊客 5700人, 外国人は0.5%ほど, 国内の観光客が多いのが特徴である. 月当たり, 300-900, 多い月は, 9月, 1月, 7月, 国内からの観光客の多くは, 地元のマットグロッソ州と隣接するサンパウロ州から訪れる. 外国人観光客は, ポルトガルとアメリカ合衆国が最も多く, 次いでドイツとイタリアである. OHP10(SESCパンタナ-ルが提供するエコツア-, レクリエ-ションの時間割SESCでは, 日曜日から土曜日まで毎日, 朝8時からよる9時まで, 12の企画が用意さている. エコツア-1件につき10-70レアル, ガソリン代, ガイド代, 食事代それぞれ5-15レアルの料金 このホテルが勧めるツア-は, クイアバ川のナイトクル-ジング, ワニ目ツア- OHP11(ポウザ-ダピウバルの写真) 次に, 伝統的なファゼンダの民宿経営の事例. これは, 150年前からあるファゼンで, 所有する土地は7000haである. このファゼンダは, 1989年から家族経営で民宿を始めた. 部屋数は16で, 総収容は50人. ちょうど大型バス1台分. 宿泊客は, 乾季の7-8月は9割が外国人である. ブラジル人は週末に訪れる程度である. 外国人の内訳は, ドイツ人が最も多く, 次いでイタリア イギリス フランス ポルトガル人である. 1方, 宿泊客は, 1-3月の雨季は, ブラジル人の方が多くなる. OHP12(ポウザ-ダピウバルの見取り図) この農家民宿の敷地は500平方mである. その南側に宿泊施設と農場施設が集中する. この農家民宿が民宿を始めるに当たって増築した宿泊施設は, 母屋にあるレストランと客室, それに隣接する2つの客室, 前庭のプ-ルである. 母屋の見取り図, 5つの客室, レストラン, 客室4と5は増築. 伝統的な農家の間取り. 強い日差しをさけるため, 広い軒, ハンモック 客室の見取り図 ベッドが3つ, 部屋はあまり広くない, テレビやエアコンはない. シャワ-と水洗トイレが部屋ごとに備え付けられている. OHP13(地域構造図) 発表まとめ. まず, 持続的開発への提言として, 湿原への環境負荷の構造を考える. 環境負荷に結びつく要因として, 4つのことがあげられる. 1. 周辺地域の開発(ポコネ市街にある露天掘りの大規模な金鉱山, 周辺の台地 セラ-ドにおける農地開発, これらの周辺地域からの河川への土壌, 農薬, 水銀などの流出) 2. 湿原内の野生動物の保護運動(Ibamaの森林警察の不足, 地元住民の認識不足などから, 動植物の違法な狩猟採集が行われている現実) 3. 湿原内の牧畜(専業の放牧農家では, 森林を伐採して, 放牧地を拡大する傾向がある) (本発表)観光業の発展 1980年代の中頃までは, 1部の野鳥観察家や釣り客などを対象として, 大河川に沿った都市周辺の開発に限られていたことと 1980年代後半からの世界的なエコツ-リズムのブ-ムにより, ブラジルの政府や, 旅行関連企業は, パンタナ-ルをモデル地域として, 観光客を呼び込んだ. それに好都合だったのが, パンタナ-ル縦断道路や州道370号線など, 州都クイアバから湿原内に直接入ることができる道路の存在 海外と国内の観光客が増加するのと同時に, 近代的なホテルが建設されたり, 伝統的なファゼンダでは宿泊施設が増築された. 新しいエコツア-やエンタ-テイメントが次々に企画される. それを実行するのが, 都市の観光業者から派遣されたガイドやホテルの授業員などである. その結果, パンタナ-ルの観光はマスツ-リズム化した. このようにして湿原奥地の観光開発が進行している. 持続的開発に向けた今後の課題としては, 近代的なホテル, 農家民宿ともに, 企画に地元住民を参加させる必要がある. パンタネイロと呼ばれる地元住民は, 草木の薬物利用など, 地域で生きていくための先祖伝来の知恵があり, これを大いに活用しなければならない. 専門教育を受けたガイドを増加させる必要. たとえば, マトグロッソドスル州のボ-ニトでは, 政府認定のガイドがいなければ, エコツア-ができない. 北パンタナ-ルの範囲は広いので, まずは, 大勢の観光客を受け入れるホテルで実施する必要があると考えられる.